花で旅する世界(3)ブルガリア 「バラの谷」、バラ祭り

[掲載日:2009/03/18]
香りに包まれる花観賞

 美しさと甘い香りが世界中で愛されているバラ。思いを寄せる人へのプレゼントにもぴったりの、ロマンチックな花だ。そんなバラの花を世界で最も多く見られる場所のひとつが、ブルガリア中部の「バラの谷」と呼ばれる一帯。バルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈にはさまれたこの谷では、春になるとバラが咲き乱れ、辺りは甘美な香りに包まれる。

 バラの谷で見られるのは、鑑賞用ではなく香油用のダマスクス・ローズ。世界中で香水などに使われるバラ香料はブルガリア産のものが8割を占めるといわれるが、そのほとんどがこのバラの谷で栽培・精製されたものだというから驚きだ。この一帯は温暖で、乾燥した気候がバラ栽培に適しており、広大な谷の各地にバラ園が点在している。

 ダマスクス・ローズは原種に近いバラの一種で、花弁はピンク色で丸い形をしている。鑑賞用の品種のような華やかさはないが、より濃厚な甘い香りを放つのが特徴。バラの谷では視覚だけでなく、嗅覚も含めて楽しむ花の観賞ができるのだ。

 5月中旬ごろに花がほころびはじめ、摘み取りがはじまる6月になると、バラの谷の各町では収穫を祝う「バラ祭り」が開催される。もともとは村ごとの小規模な収穫祭だったが、近年は国外からも観光客を集める一大フェスティバルとなり、なかでもカザンラクのものが最大だ。バラの女王コンテストや聖歌隊の合唱などが催されるなか、見ごたえがあるのは市北西のバラ公園で行なわれる「国際民族舞踊フェスティバル」。ブルガリアの周辺諸国から集まった舞踊団が、華やかな民族衣装に身を包み、踊りを披露する。

 祭りのクライマックスはバラ摘み。民族衣装姿の人々がバラの花で飾られた馬車に乗り、参加者が歌を歌いながらバラ畑に向かう。バラの花輪を頭に載せた人が、広大なバラ畑で花を摘む光景がなんとも牧歌的で美しい。その後はカザンラクの中心広場に集まり、舞踊団も観光客も一緒に輪になって踊る。田舎らしい素朴な雰囲気の、しかし魅力いっぱいの祭りだ。

バラ祭りには小さな袋を忘れずに

 バラ祭りは毎年6月の第1日曜にはじまり、1週間ほど続く。最初の2日間にバラの女王コンテストとパレードがあり、最終日にバラ摘みが行なわれる。しかし2009年は選挙のために変更され、5月31日の予定だ。ただし、すでに来ることが決まっている外国人観光客のために、旧日程の6月6日にもバラ摘みや蒸留等のイベントパフォーマンスがされるとのこと。バラ摘みの日に訪れる場合は、ぜひ小さな袋を持参しよう。バラ摘みに参加する場合はその袋に自分で摘んだバラを入れ、持ち帰ることが可能だ。ドライフラワーや押し花などにして残せば、素敵な旅の記念になることだろう。

 ブルガリアの首都ソフィアからカザンラクへは、鉄道で約3時間30分。乗り換えなしで行くことができ、アクセスも悪くない。祭りの時期に訪れる場合は、カザンラクはホテルが少ないので必ず早めに予約をしたい。カザンラクから20キロほどの距離にあるパヴェル・バニャや、30キロほどのスタラ・ザゴラ、50キロほどのプロヴディフなど、近郊の町に宿泊することも一案だ。

 バルカン半島の要地にあるブルガリアは、古代からさまざまな民族が行き交い、その足跡を残してきた。豊かな自然に恵まれており、観光資源も豊富だ。バラ祭りを組み込んだツアーは各社から発売されているが、世界遺産のリラの僧院や古都プロヴディフ、琴欧州のふるさとであり、街並みが美しいヴェリコ・タルノヴォを訪れるものが多い。さらにルーマニアまで足をのばすものもあり、いまだ中世らしさを残す東欧の雰囲気を満喫できるものとなっている。


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