JICAの専門員として、松井啓駐ブルガリア日本大使在勤の頃を中心に、1996年から2001年の5年間ブルガリアに駐在し、ブルガリアに慣れ親しんだ根岸毅さんが、寄稿してくださいました。
 その「ブルガリアの食事」版です。
 ブルガリアに興味を持たれている方の役に立ててもらえれば、とのこと。
 ご覧の上、参考にしてください。


ブルガリアの食事

ギリシャ人は海に沿って都市国家を築くのが通例だが、アレキサンダー大王の父フィリッポス2世は内陸のブルガリア第二の都市プロブディフに居を構えていて、その後にこの地へやってきたブルガリア人に大きな影響を与え、キリル文字はブルガリア人キリルとメトディの兄弟が作ったと言われているが、キリスト教等の文化とともにキリル文字がロシアなどのスラブ民族に伝えられた。ブルガリアの民族レストランはギリシャと同じく「タベルナ」といい、ギリシャとも食事など似ていて豚や羊の丸焼きなど祝いの時に食べます。


カバルマ

タラトール
ショプスカサラダ

ブルガリアは1396年から約500年間オスマン・トルコの支配下に置かれたため、文化的にもかなりトルコの影響を受けていて、カバルマやキュフテ等の焼き肉、飲み終わったカップの底に残ったコーヒー粉末の模様で占うトルコ・コーヒー、濃い砂糖水につけたヴァクラヴァお菓子など、その影響が表れています。

ブルガリアの食事は普通サラダと蒸留酒のラキア(市販のものでアルコール度40度、ホームメイドでは60度位)で始まります。サラダはメゼ(酒の肴の意)といって、ラキアを飲みながら食べて胃の調子を整えるのです。野菜がないとダメな日本人にはとても合います。それからスープ(パンをスープを付けて食べる時はフォークに刺して漬けるのが良い)、そしてワインと一緒にメインディッシュの肉または魚(ベジタブルの盛り合わせたもの)の料理へと進みます。アルコールの飲み方は、日本流のビールに始まり日本酒や焼酎など度の強いものへと行くのと逆で、強いものから弱いものへとなり、ビールも美味しいですが、お茶変わりか、昼食の時とかに飲むことが多いようです。

(サラダ)
種類が多い。ショプスカ(ショップ人のサラダの意、昔首都ソフィア地方に住む人をショップ人といった)サラダ、赤カブのサラダ、スネジャンカ(白雪サラダ…ヨーグルトにキュウリとニンニクにオリーブ油を加えた)、パトラジャン(ナスのペースト状サラダ)、白豆のサラダ、

(漬物)
キャベツの漬物、チューシキ(焼いたピーマンの皮をむいた)の漬物、

(スープ)
ボブチョルバ(豆のスープ)、チキンスープ、タラト−ル(夏のスープ)等

(肉)
豚肉と鶏肉(とても美味しい)、ラム肉(とても美味しい)、牛肉(年取った乳牛が多いのであまり勧められない)、…ぺトリッチの一部で栗を食べさせている豚肉はとても美味です。

(魚)
ブルガリアでは黒海でとれる鯖、イボカレイ、イカなどに、ギリシャからのマグロ、タイなど、そして北海からの鮭が流通、川魚では養殖のマスが出回っています。日本へは黒海で採れる“さざえもどき”があります。また、シネモレッツというトルコとの国境にある町の黒海の岩場には小エビが生息しており、採って唐揚げにしたら美味しかったです。でもブルガリアではほとんどの人が知りません。

(野菜)
玉ねぎ、長ネギ(日本のネギと同じ…通常は塩を振って生で食べる)、プラス(ネギの一種…煮物に使う)、二十日赤カブ(サラダに適)、ボルシチ用赤カブ、トマト、ジャガイモ(とても美味しい)、チューシキ(赤ピーマン…秋に焼いて皮をはぎ、漬物あるいは冷凍にして保存…とても美味しい)かぼちゃ(水っぽい…焼いて食べる)、人参、レタス、キャベツ(秋に漬物にして保存、冬の食べ物でです)、大根と白菜(ブルガリアに住んでいる韓国人が栽培)、さつまいも等豊富。各種キノコ(春秋の雨季にキノコが発生。大勢の人がキノコ狩りに行く。但し毒キノコや消化の悪いキノコがあるので、判別ができる人−ロシア人は出来る人が多い−に同行してもらい、チェックしてもらうとよい)、栽培シイタケ、栽培マッシュル−ム、各種豆類、インゲン等、それに蕗(せせらぎのあるところ等に生息)とゼンマイ(ビトシャ山等の林の中にある)、それに牛蒡(道端の野原に生えている)。これらはアクがあるので、毒だと言ってブルガリア人は食べません。でもあく抜きした料理を食べさせると美味しいといって食べます。

ラキア

(果物)
さくらんぼ(すっぱ味のあるものと糖度の高く大変美味なモノあり。そのまま食べてもおいしいが、夏には冷凍庫に入れておきシャーベット状にして食べるとこれまた美味しい。糖度が高いモノは煮詰めるだけでジャムになり大変おいしい)、りんご、杏、すもも、うり、いちご(日本のいちごに比べると小さく貧弱)、洋ナシ(とても美味しい)、乾燥イチジク(トルコから輸入)、輸入バナナ、スイカ、マンダリン、くるみ、野生のブルーベリー、ラズベリー等

(飲み物)
各種果物ジュース、チャイ(紅茶)、エスプレッソ(通常はコーヒーと言えばこれが出る)、トルココーヒー(コーヒー豆を挽いた粉末を分離せず、液と一緒にコップに注ぎ、飲んだ後にカップに残ったカスの模様で占う)、各種インスタントコーヒー、アイリャン(ヨーグルトにミネラルウオーターを加えたもの…夏の飲み物)

(アルコール類)
ビール(美味しい)、各種ラキア(美味しい)、赤ワイン(マブルッド…ブルガリア固有のワイン、カバルネソーベニオン、メルロー)、白ワイン(シャルドネ、マスカット)、マスティカ(ギリシャのウゾと同じで、ラキアに胃薬を加えたもの…冷蔵庫に入れると白く濁る)

ブルガリアにはワインの歌が沢山あるが、赤ワインの歌がほとんどで、白ワインの歌は合っても「白ワイン、おまえは何故赤ワインではないのだ…」と言うような歌しかない。

(家庭で作るモノ)
ブルガリアでは半数近くの家がダウチャ(夏の家)を持ち金曜の午後からダウチャに行き終末を過ごす。そこで家族のだんらんを過ごすと共に、必要な野菜や果物を育て、収穫物などから冬の食料などを作り、必要なものは家に持ち帰る。また近くの山に行き薬草や木の実やキノコやカタツムリを採取し保存食を作る。例えば、カタツムリの料理(草原でカタツムリを採り、一週間ほど絶食させ、糞をきれいにした状態で、油で焼くなど料理)、チュウシキの漬物(チュウシキを焼き皮をむいてビンに入れボイルし、塩とハーブを入れ蓋を密閉し、地下室に保存。冬の間の保存食)、キャベツの漬物(キャベツを丸ごと塩水に漬け冬にそのままあるいは肉などと一緒に煮て食べる)、くるみ(青いうちに樹から取り、皮をむいて実だけを干して乾燥させる)、ぶどう(採集したブドウをつぶし、汁を発効させ葡萄酒を作る、更に汁をしぼったカスを使い蒸留酒のラキアを作る)リンゴ(熟したリンゴを新聞紙に包み保存する)、キノコ(漬物を作る)、ヨーグルト(搾った乳を温め乳酸菌を入れ、あるいはヨーグルトの残りを入れて一定温度に保つように一晩寝かせておくと出来たてのヨーグルトができる)、アイリャン(ヨーグルトに4分の1位の冷たいミネラルウオーターを注ぎ、夏の飲み物として飲む)等を作ります。

(蜂蜜)
バラ、菩提樹、アカシア、コリアンダー、ひまわり、ポリフラワー、樫の樹液等の蜂蜜があり、それに松の新芽を煮立てて採った樹液のものもあります。ブルガリアでも日本人から学んで、ヨーグルトに蜂蜜を入れる人が増えています。

(デザート)
アイスクリーム、ケーキ、果物、等

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