JICAの専門員として、松井啓駐ブルガリア日本大使在勤の頃を中心に、1996年から2001年の5年間ブルガリアに駐在し、ブルガリアに慣れ親しんだ根岸毅さんからの寄稿、「ブルガリアの自然」版です。
 ブルガリアに興味を持たれている方の役に立ててもらえれば、とのこと。
 ご覧の上、参考にしていただきたい、と思います。
 
 






一面のひまわり畑
 



コウノトリ

さくらんぼで絵にして

ブルガリアは自然に恵まれた国で山地が多く平地は少なく黒海に面している。但し、一部2,500メートルを超える急峻なところもあるが、多くの山地はなだらかで、果樹や作物または放牧できるところが多い。北海道とほぼ同じ緯度(北緯42度付近)に位置し四季がある。1996年頃までは夏と言っても25度くらいにしかならずとても涼しく冷房装置のある家など滅多になかった。しかも年間降水が約1,000ミリと少ないので特に雨の降らない夏には道端の雑草が枯れていたし、リンゴやさくらんぼなどの果樹は水やりなどをしないものは枯れたりしていた。しかし2,000年以降雨が多くなり、初めて洪水を経験、夏の気温も40度以上まで上がるようになった。冬も12月に雪が降り、1月は雪が少なく、2月は天気は安定し残り雪が凍って一面にアイスバーンが拡がり、3月には雪解けして道路は水浸しになり車が跳ねた水でびしょ濡れになる恐れがある。


マルテニッツァ

3月1日にはババ・マルタ(マルタおばあさん)の祭りが春の到来を祝って行われる。赤と白の毛糸で作ったマルテ二ッツァを胸や腕につけて幸運が来ることを祈る。コウノトリを見たり、良いことがあった時は日本のおみくじのように、このマルテ二ッツァを木の枝に結ぶ。このころを過ぎると白いスノウドロップ、遅れて4月頃に黄色のクロッカスが咲きはじめる。5月になると木々は一斉に芽吹き、菜の花、チェリ―やスモモの花が咲き、5月末には有名なバラ(花弁からローズオイルが採れる)や野バラ(実はローズヒップ…お茶として飲む)も咲き始める。バラの谷にあるカザンラクやカルロヴォでは5月末か6月初めにバラ祭りが行われ世界中から大勢が人が集まる。そして道端には赤いポピーも人目を引く。このころに南からやってきたコウノトリが家の煙突や電柱等の上に巣を作り子育てが始まる。ツバメも南からやってきて軒先に巣を作り子育てにいそしむ。6月半ばには首都ソフィア始め多くのところで菩提樹(葉の中央から黄色い花が咲く)が咲き甘い匂いを振りまく。そしてひまわり畑が黄色に染まる。ハイキングに行くと、ギリシャに近いぺトリッチ市の山中では小型のシクラメンの原種が咲いている。ぺトリッチは他と比べて温かく日本からのものだと思われるが青竹など茂っている。この頃になると晴れの日が多くなり気温も高く35度以上になる日もあり、アイスクリームがおいしい。又、店にはサクランボ、杏が目を引き、スイカやスモモも出回り、これら果物がとても美味しい。市場ではこれら果物やキュウリ、トマトなどの新鮮な野菜が並べられ、これらを買う人々で賑わう。6月23日はハーブの日で人々は野山でハーブを摘み取り、あるいは市場で求めて、日陰で乾燥させ、お茶等として煎じて飲む。


7月になると夏休み(企業などでは夏休みは順番に3〜4週間採るのが普通)が始まり,海に山にと出かける。黒海に面した地域では海水浴に出かける人が多くにぎわう。彼らは家族や親族で海岸にテントを張り2〜3週間海を楽しむのが当たり前である。日本人みたいにあくせく方々を回るのでなく、ゆっくり、そして、じっくり楽しむのである。また、ロシアやヨーロッパからも大勢の人が押し寄せる。トルコとの国境の町シネモレッツでは黒海の岩陰に小エビが沢山生息しており、これを網で採って揚げると小エビのから揚げになり日本でしか味わえない味をブルガリアで味わうことが出来嬉しいものである。

ブルガリアは方々に温泉が湧き出でている。その湧水を利用して水場を作ることが男としてなすべきこととして、功なり名を遂げた人はそれぞれ水場を作ったので、ブルガリアの多くのところで新鮮な湧き水を飲むことができる。また温泉水を利用したプールもあり、プールで楽しむ人たちも多い。今までは一部地域を除き、温泉というと、治療用が主でプール以外レジャーで入浴を楽しむという概念はあまりなかった。しかし最近では、温泉付きホテルも増え入浴を楽しむ人も出てきた。

 夏休みを海でなく湖畔や山で、釣りをしたり、自然を楽しんだり、森林浴をしたりと夏休みを過ごす人も多い。狩猟を楽しむ人もいる。また、登山を楽しむ人も多い。ソフィア市郊外にあるヴィトシャ山に登ると忘れな草やユリ、その他山野草が一面に咲き誇っている。世界遺産のリラ僧院とバンスコに挟まれた世界自然遺産ピリン国立公園のトレッキングは美しい湖ときれいな花々、そしてブルガリア最高峰の雄大な山々等素晴らしい景色が見られ圧巻である。

ブルガリアは共産主義時代から植林をしていたので、はげ山が多い隣国ギリシャに比べ緑が多い。森の中にはオオカミなど珍しい動物が今でも生息している。又、森の中には野生のスモモやリンゴやナシなどが実をつけ、これらを食べたりできる。でもリンゴなどはかなり酸っぱくジャムにしたりすると最高である。野原にはカタツムリがいる。それを捕まえて、樽の中に数日置いておき、糞を出させてから、マッシュルームなどと一緒に油で料理し、ワインなどと一緒に食べるとおいしい。

春と秋の変わり目の5月と9月に雨が降り、降った後キノコが発生しブルガリア人の多くはキノコ狩りを楽しむ。但し、キノコの中には毒キノコあり、食べられても消化の悪いモノ、多く食べると身体によくないモノ(イタリアなどに輸出されているマナタルカなど)があるのでキノコの知識のある人(一般に年寄りのロシアがよく知っている)と一緒に行き指導を受けるなど十分に気をつけることが大事である。

ブルガリアの紅葉は、黄色が多く赤が少ないので、日本の紅葉ほどではないが、きれいである。秋が押し詰まり、11月の終わりになると雪が降り始める。


ブルガリア最高峰をのぞむ紅葉


冬はスキーの季節である。ヨーロッパから近く、安く、便利で余り混んでなく、雪質も良いので、イギリスやヨーロッパの人々や北欧の人々も押し掛ける。スキー場は首都ソフィアの近くでは、ヨーロッパなどで有名なボロベッツ(Borovets)やパンポロヴォ(Panporovo)など、そしてバンスコ(Bansko)、少し遠くではスモーリャン(Smolyan)にスキー場があり、多くの人がスキーを楽しんでいる。

このほかに、ブルガリア人の一部は郊外にサマーハウスを持っている。金曜日の午後から車に必要な荷物を積んでサマーハウスに行き、そこで家族や友人を招き週末を過ごす。飲み水は途中や近くで湧き出ている湧き水をペットボトルに詰めて持ち込む。ヨーグルトを作るために必要な牛乳は近くの農家や店で買い、パンや肉は途中や近くで買う。サマーハウスでは庭を耕し野菜や果物を植え、手入れをし、収穫する。そして収穫したブドウからドマシュノ(自家製)ワインやドマシュノラキアを作る。クルミはまだ皮が青いうちに皮をむいて種を割り実を取り出して干しておく。ラズベリーやイチゴ等は摘んで生食かジャムにする。リンゴはそのまま食べたり新聞紙に包み段ボールに保存するなど冬の保存食を作る。また、近くの野山にキノコ狩りに行き、採ったキノコを漬物や煮物にしたりする。このようにして集めた材料で、食事を楽しむのだ。ひと働きし、ワインと食事で満腹になった後の木に吊るしたハンモックでの昼寝もなかなか気持ちがよい。サマーハウスにはシャワーはあるが水なので、冬は遠慮したい。寒い時にはワインやラキアを温めて蜂蜜を入れて飲むと体が温まる。

また、ソフィア市内中心部にある360ヘクタールの大きなボリス公園は手入れが行き届き緑豊かで、サッカー場、ホッケー場、テニスコート、プールやレストランや喫茶店もあり、散歩や森林浴、遊びやゲームを楽しむ憩いの場所となっていて、ときどき野外ホールで演奏会も行われる。だから家族連れや若者や老人に至るまで多くの市民などでいつも賑わっている。

このようにブルガリアの人々は自然に親しみ、自然につかり、自然を楽しんでいる。



表紙へ戻る 寄稿目次ページへ